女性たちへ贈る言葉 vol.1 吉元 由美さん(作詞家 洗足学園音楽大学客員教授)

2020.12.04
女性たちへ贈る言葉 vol.1 吉元 由美さん(作詞家 洗足学園音楽大学客員教授)
どんなに暗いトンネルも、必ずどこかに出口がある

新型コロナウイルス流行の今、職場解雇や収入減少、家庭内のDVや虐待、介護、急増する自殺など、多くの女性たちが厳しい状況下に置かれています。本稿は、そんな先の見えない不安と闘う女性に、少しでも勇気と希望を届けるべくスタートした連載コラムです。困難な人生を果敢にくぐり抜けてきた著名人から、そのとき支えとなった言葉を贈ってもらいます。第1回目は、作詞家・吉元由美さんの“贈る言葉”を紹介します。

吉元 由美さん(作詞家 洗足学園音楽大学客員教授)
吉元 由美さん(作詞家 洗足学園音楽大学客員教授)
東京生まれ。成城大学英文学科卒業。広告代理店勤務の後、1984年、24歳のときに作詞家デビュー。これまでに数多くのアーティストの作品を手掛け、平原綾香の「Jupiter」はミリオンヒットとなる。エッセイストとしても活躍し、「読むだけでたくさん『奇跡』が起こる本」(三笠書房)など著書多数。現在は、執筆活動の他に週1回の音楽大学での講義、またエッセイや作詞を通して人生を豊かにする「ライフアーティスト・アカデミー」を主宰。

誰もが何かしらの才能をもっている

―――作詞家ということですが、その類まれな才能を開花された吉元さん。幼少期、そしてそれからはどのように過ごされてきたのでしょうか?

子どもの頃から、常に何かを考えている子どもでした。人には、目に見える外側の部分だけではなく、内側の部分、その人だけの心の世界があるって感じていましたね。どんな人にも必ず何かしらの才能があって、それを活かして生きていくものなのだと。大学卒業時に「作詞家になったら?」と声をかけてもらい、それからは無我夢中で、あっという間に30年以上が過ぎていったという感じです。今でも、「生きるってどういうこと?」とか、「愛するってどういうこと?」なんて、毎日そんなことばかり考えて過ごしています。

不満もないし不足もない。でも私の人生このままでいいのかな?って

―――これまでの人生で本当に辛かったとき、どうしたら良いか悩んだことなどはありましたか?

1980年代のバブル期は、制作本数も多く、とても忙しくしていました。成功したいとか、ナンバーワンになりたいとか、そんな欲は全然なくて、毎日を必死に過ごすだけで精一杯。午前と午後に1曲ずつ作詞をすることもありました。30歳で小説を発表することもできて、世間から見たら順風満帆、人生がうまく回っているって感じでした。ところがある日、ふと「私の人生これでいいのかな?」と思ったんです。それが30歳を過ぎた頃。そこから数年にわたる、人生のトンネル期がはじまりました。自己啓発本を読んでみたり、ドルフィンスイムを試してみたり、有名なパワースポットに行ったり。でも、人生何も変わらない。

小さな光でも、掴むこと。

―――順風満帆な人生から、一転暗いトンネル期に突入された吉元さん。一体どのように抜け出せたのでしょうか?

まさにトンネル。何をやっても全然、心が晴れませんでした。でも、心理セッションを受け、アートセラピーやドリームセラピーを学び、最終的には自分が見た夢を通して心の奥のメッセージを紐解き、自分のなかに答えが見つかったのです。悩みごとの答えは、自分の中にあることに気づいたら、人生に希望を見い出すことができました。生きるのが辛い、しんどいって感じたときは、今はトンネルの中にいるんだって思うことが大事。同じ暗闇でも、洞窟はだめですよ、行き止まりですから。トンネルなら、いつか必ず光が見えるから、希望を持つことができます。そして光は、暗幕に針でつついたような穴からでも零れてきます。たとえ、ほんのわずかな光でも、それを掴むことです。

他人と人生をともにすることは私にとっては挑戦だった。だから結婚した

―――長いトンネルから抜け出た後、人生はどう変わっていきましたか?

それまでは、何でも自分一人で頑張ってきたから、誰かに委ねることが私にとって新しい挑戦だって気づいたのです。それで、「あ、結婚して家庭をもとう」と思いました。「結婚は魂磨き」とも言います。「好き、好き、大好き」だけじゃ、うまくいかない。夫婦が切磋琢磨して、一緒に成長していくのが結婚だと思います。一人娘がおりますが、子どもを産み育てたことも、自分のなかでは大きなチャレンジでした。子育てとは、ただただ愛するということを試されているということ。子育ては、自分のエゴと向き合うことでもあります。すごい鍛錬です!まぁ、子どものほうも、「こんな親と付き合うなんて鍛錬」って思っていたかもしれませんね。

娘が反抗期のときには、「全部ホルモンのせい!」って思うことで乗り越えました。そう思うと、そんなに腹も立たないし、自分もちょうど更年期だったからお互い様、だとも思える。あっちは思春期でイライラ、こっちは更年期でイライラ。(笑)ユーモアを持って解釈してみると見方が変わります。

生きづらさの処方箋
Q:女性ばかりが耐えたり、我慢を強いられたりする風潮が気になります。女性はもっとストレートに、意見や怒りを表現しても良いのでは?

吉元さんからの処方箋「健全な」忍耐力は、誰にも必要なものですよね。全部が全部、自分の思い通りにいかないのは仕方のないこと。憤りを感じたときは、それを表に出す前に「あ、今、私は怒っているんだ」と自分の気持ちを感じる。そしてなぜ憤るか気持ちを深めてみる。すると、たとえば「わかってもらえない悲しさ」が憤りの奥にあることに気づく。自分の深い気持ちに触れたとき、本当の癒しが起こります。何か腹が立つことを言われときほど冷静に。そして「そんなふうに言われると傷つきます」「その言い方は失礼です」などと落ち着いて伝える。怒りだけでなく、悲しさや寂しさ、悔しさといったさまざまな感情を受け止めることは、自分自身とともにいるということ。自分を大切にすることにつながるのです。